酸化物ガラス融液における温度勾配下での物質拡散の微視的・熱力学的解釈

温度勾配を駆動力とした拡散現象を「ソレー効果」と呼びます。二つ以上の成分を含む均一な液体に温度勾配をかけるとある成分は高温側で高濃度となり、またある成分は低温側で高濃度となります。

ソレー効果を定量的に表す量として、ソレー係数があります。

気体のソレー効果では、チャップマンらによってソレー係数の予測式が提案されていますが、

液体・固体においては、拡散種間の強くかつ複雑な相互作用により、

ソレー係数を高い精度で予測できる式が存在しません。

エタノールー水の二成分系などに対して、さまざまなソレー効果のモデルが提案され続けています。

ガラス融液中でソレー効果が起こると、ある成分は高温側へ、またある成分は低温側へ移動することで組成比が不均一になる現象が起こります。

ガラスの組成変動は熱的、光学的あるいは機械的物性等に影響を及ぼすため、ソレー効果を理解することはアカデミックな研究としての興味に加え、工業的にも重要です。拡散種の性質、融液構造、エネルギー密度分布がどのようにソレー効果に寄与しているのかを、分子動力学を用いた微視的なスケールと実験や熱力学理論による巨視的なスケールとで考察し、現象論に止まることなく本質を理解するための研究を行っています。

成果の一つとして、2018 年に当研究室では、ガラス融液のソレー効果の理論モデルとして修正Kempers モデルを世界に先駆けて提唱しました。